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2018.03.14

構造転換が進む日本の農業棟方 敏宏  上席研究員

日本の農業は小規模稲作農家を中心に高齢化が進み、厳しい状況にあるとされるが、その一方で、退出する小規模農家の農地が「担い手」といわれる一部の農家や農業法人等に集積され、経営体の大規模化が着実に進行している。構造転換が進む農業の現状を統計データを基に概観する。

 日本の農業は「危機的」状況か

日本の農業の状況については、政府の「農林水産業・地域の活力創造プラン」が冒頭で「我が国の農林水産業・農山漁村の現場を取り巻く状況は厳しさを増している」と述べているように、近年は「厳しい」とか「危機的」といった評価がよく見られる。確かに同プランが指摘するように、基幹的農業従事者の平均年齢は67歳に達し、耕作放棄地が富山県の全面積に匹敵する42haに及ぶなど、農業を取り巻く環境は年々厳しさを増しているように見える。

しかし目を転じると、2001年以降8兆円台で推移してきた農業総産出額が近年は増加に転じ、2016年には16年ぶりに9兆円台を回復している。基幹的農業従事者の高齢化は小規模稲作経営で顕著だが、販売額1500万円以上の農家では平均年齢は50歳台である。農地も、条件の悪い圃場は耕作放棄されて荒廃化しやすいが、優良農地は需要に対して供給が不足して農地集積が進まないとまで言われている。

 
進行する経営の大規模化

販売農家の数は133万戸(2015年)で、10年間に63万戸減少しているが、一方で経営規模を拡大する農家が増えている。都府県では耕地面積20ha以上の経営体が10年間で2.7倍に、北海道では100ha以上の経営体が1.7倍に増加し、全国では100ha以上の経営体が1500体を超えている。経営耕地面積規模別の耕地面積集積割合を見ると、経営耕地5ha未満の経営体の耕作面積割合が徐々に減少する一方、5ha以上の経営体の耕作面積割合は着実に増加している(図表)。

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このように見ると、「厳しい」「危機的」状況にあるのは、日本の農業全体というよりも、日本の農家の大半を占める小規模農家(特に稲作農家)による農業であることがわかる。これまで日本の農業の主力であった小規模農家が高齢化等により次第に退出する一方で、「担い手」といわれる地域の有力な農業者や農業法人、集落営農等がその跡を埋めている。これらの担い手は退出する農家から農地を賃借して集積し、新しい技術や雇用労働を導入して大規模経営を目指す傾向があり、加工や販売を手掛けること(6次産業化)も多い。これらの担い手、すなわち中規模〜大規模の農業経営体が今後の日本の農業の主役となる。
 
大規模化の課題
一方、農業経営の大規模化に向けては課題もある。ひとつには、経営の大規模化が生産性向上につながるかという問題である。日本の農業は、農家あたりの耕地面積が小さいことに加え、小さな農地が多数分散していることが特徴である。例えば経営耕地20haの経営体であれば、農地は数十か所に分散しているのが普通である。その状態では、圃場間の移動に時間を要したり、農業機械の利用効率が落ちるなどして、生産性が上がらない。
これを改善するには、農地を集積する(経営面積を増やす)ことに加え、集約化する(農地をまとめる)ことが必要になる。政府は2014年度から、各都道府県に設置された「農地中間管理機構」が退出する農家の農地を借りて、まとまった形で担い手に貸し出す事業を開始した。同機構のこれまでの実績は当初目標を大きく下回っているが、各種のテコ入れにより業績向上が期待されている。一方、近年は生産管理システムや農業用センサーなどのICT技術の活用や、自動走行農機、農業用ドローンなどの新しい機械技術の開発が進んでおり、これらの技術が多数の圃場の管理と効率的な農作業を可能にして生産性を大きく向上させる可能性もある。

経営の大規模化に伴う労働力の確保の問題もある。農業は昔から家族経営が中心であるが、経営規模が拡大すると雇用労働が必要になる。実際、法人経営体の雇用労働者(常雇い)はこの10年間に倍増して10万人を超えているが、最近では全産業的な人手不足の影響で、農業分野も労働力の確保が難しくなっている。待遇や福利厚生、人材育成を含め、農業を魅力ある就職先にすることが課題になる。また、外国人技能実習生の受入拡大や国家戦略特区での農業外国人の就労解禁など、外国人労働力を活用する動きもあり、将来は外国人労働が日本の農業を支える可能性もある。 

農業の構造転換

    このように、日本の農業では小規模農家の退出と一部農家の大規模化という構造転換が課題を抱えつつも進行しており、この動きは当面続くと思われる。政府も成長戦略の一つに農林水産業の成長産業化を掲げて、基本的にはこの構造転換を促進する政策をとっている。今後10年〜15年で、日本の農業の構造と農業を取り巻くビジネスの環境は大きく変わると思われ、その動向には注意を払う必要があろう。


 
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