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2017.05.15

民泊を取り巻く現状と新たな法制度宇佐 祐樹  研究員

訪日外国人が増え、ホテルの需給逼迫が叫ばれる中、その解決策として「民泊」が注目されている。本稿では、民泊の概略と旅行に関する指標の動向、そして本年3月に閣議決定された「民泊新法」についての議論の一端を紹介する。

 1.2016年の流行語
昨年も様々な新語・流行語が世間を賑わせた。「ユーキャン新語・流行語大賞」の2016年ノミネート語を見ると、昨年の象徴的な出来事を概観することができる。「EU離脱」「トランプ現象」といった政治に関連する用語や、「文春砲」「シン・ゴジラ」「君の名は。」「ポケモンGO」「PPAP」といった様々な用語30語がノミネートされた。
それらの言葉とともにノミネートされた用語が、本稿で取り上げる「民泊」という言葉である。首都圏・近畿圏での急速な拡大や新たな法制度の検討も相まって、2017年はより身近なテーマとして取り上げられることが増えると思われる。そこでその民泊について着目し、訪日外国人や宿泊施設の状況とあわせて紹介したい。

2.住宅を宿泊施設として貸し出す「民泊」
「民泊」あるいは「民泊サービス」は、「住宅(戸建住宅、共同住宅等)の全部又は一部を活用して、宿泊サービスを提供するもの」(厚生労働省・観光庁「『民泊サービス』の制度設計のあり方について」)等と定義される。個人の自宅の空いている部屋に観光客を宿泊させ、その対価を受け取るといったものが該当する。既存の法律で民泊を実施するには、原則として旅館業法にもとづく営業許可を取得するか、いわゆる「特区民泊」の制度を用いる必要があるが、いずれも求められるハードルが高く、あまり普及していない。
この民泊は、空きスペースや物件を貸したいオーナーと、ホテルより安く泊まりたい・現地の生活を知りたい旅行者とをマッチングするプラットフォームの登場によって普及した。代表的なプラットフォームは米国のAirbnbである。報道によると、Airbnb20172月時点での掲載物件数は東京で1.6万件超、大阪で1.2万件超にのぼるという。中国発のプラットフォームも勢いを増している。その一つの「途家(トゥージア)」は、日本に法人を設立し、日本語のウェブサイトを開設している。

3.増加する訪日外国人と高い宿泊施設稼働率
民泊は、訪日外国人旅行客の増加等によって需給が逼迫しているホテルの代替手段となることが期待されている。そのようなニーズを満たしうるのか、まずは訪日外国人旅行客の人数推移やホテルの稼働状況を確認したい。
図表1は直近10年ほどの訪日外国人旅行客数の推移である。日本政府観光局(JNTO)によると、訪日外国人旅行客は2011年から急増しており、2016年には2400万人を超えた。2017年速報値においても前年比で依然増加しており、2020年の東京オリンピックに向けて増加基調が続くことが見込まれる。
その一方で、ビジネスホテルやシティホテルの需給は逼迫している。一般にホテル旅館の客室稼働率は80%を超えると満室が目立ち、予約が取りづらくなると言われている。観光庁の「宿泊旅行統計調査」によると、2016年(速報値)は東京・神奈川・京都・大阪の4つの都府県でビジネスホテルの稼働率が80%を超えている。また、シティホテルの稼働率は石川、広島、福岡、沖縄といった地方の観光都市においても80%を超えている。2016年は15年比でマイナスに転じる月も多く、上昇に一服感がみられるが、首都圏や人気観光地は軒並み高い水準となっている。図表2において、上記の4つの都府県でのホテル稼働率とその前年比の数値を表にまとめたため、参照されたい。
 
        <図表1>訪日外国人旅行客数の推移image002.pngのサムネール画像              出典:JNTO「国籍/月別訪日外客数(2003年~2017年)」より筆者作成

        <図表2>2016年の客室稼働率(2016年1~12月速報値)
kankouchou2.png              出典:観光庁「宿泊旅行統計調査(平成28年・年間値(速報値))」等より筆者作成 


4.行政機関は民泊の実態を把握できていない

高い客室稼働率を維持している首都圏や近畿圏では、ビジネスホテルやシティホテルの代替手段として、民泊という選択肢を増やすという議論が起こることは違和感がない。また、Airbnbをはじめとする民泊プラットフォームには既に大量の物件が登録されていることは前述のとおりである。
しかし、そのような状況にも関わらず、行政が民泊の情報を把握しておらず、実態把握が困難な状況にある。厚生労働省は、民泊運営実態を把握するために201610月から12月にかけて調査を行った。民泊仲介サイトに掲載されている物件を無作為に抽出し、許可の情報を各自治体へ問い合わせたところ、正式な許可(旅館業法、特区民泊)の取得が確認できたのは16.5%に留まり、無許可と特定できたのが30.6%、残りの52.9%は物件特定不可あるいは調査継続中となった。適法物件の少なさもさることながら、50%以上の物件は許可の有無さえも把握できない、というのが民泊の現状である。 

5.民泊新法「住宅宿泊事業法案」のポイント
このような現状を解決するために201511月より政府の検討会が発足し、本年3月には検討会の最終報告書を基にした「住宅宿泊事業法案」が閣議決定された。以下では、3月に公表された法案の内容を部分的ではあるが確認したい。図表3は法案に関わる当事者を図示したものである。
 
        <図表3>住宅宿泊事業法案の当事者キャプチャ2.PNG              出典:観光庁HP
 
事業形態:「家主居住型」と「家主不在型」
民泊は、主にホームステイのように自分の居住している家の一部を貸し出す「家主居住型」と、所有しているアパートやマンションの空き室を貸し出す「家主不在型」に大別される。特に家主不在型は、物件オーナーが宿泊者を直接監督できない点や、第三者(近隣住人等)が問い合わせを行う際に誰に問い合わせるべきかわからないといった点から問題視されている。
法案においては、家主居住型・家主不在型を明確には定義していない。民泊ビジネスを営む者を「住宅宿泊事業者」と定義し、住宅宿泊事業者には都道府県知事等に事業を営む旨の届出を行うこととされる。そして、「届出住宅に人を宿泊させる間、不在…となるとき」、すなわち家主不在型の民泊を実施する場合には、その管理を「住宅宿泊管理業者」に委託しなければならない。
 

民泊管理会社への規制
「住宅宿泊管理業者」とは、事業者に求められる民泊の管理業務(衛生確保、外国人観光旅客への対応、宿泊者名簿の管理、苦情対応等)を代行する者をいう。現状においても民泊の管理運営を代行する事業者があり、それらが該当するものと考えられる。住宅宿泊管理業者は国土交通大臣への登録と5年ごとの更新が義務付けられる。
物件オーナー本人が管理業者の登録をして自ら物件管理をすることも可能で、その場合管理業者への委託は不要である。

プラットフォーマーへの規制
Airbnbといったプラットフォーマーは「住宅宿泊仲介業者」と呼ばれ、観光庁長官への登録と5年ごとの更新が義務付けられる。プラットフォームを通して物件を貸し出したいオーナーは、この住宅宿泊仲介業者か旅行業者に対して委託しなければならず、無登録プラットフォーマーを利用した場合は法令違反となる。
 
宿泊日数上限
営業日数の上限は、人を宿泊させる日数が「一年間で百八十日を超えないもの」とされた。詳しい計算方法は省令で定めることとされている。
営業日数制限については導入に際して議論が起こった。検討会議の資料を見ると、海外においては営業日数制限を設けている都市やそもそも家主不在型の民泊を禁じる都市も存在する。違法民泊と比較して収益性の低下が見込まれるが、利益を追求するのであれば他の事業者と同様に旅館業法や特区民泊の規制に適応し、営業日数の制限なく事業を行うことが考えられる。
 
罰則
住宅宿泊事業者・管理業者・仲介業者がそれぞれの規制を守らなかった場合、様々な罰則が科せられる。新たに整備される罰則の中で注目したいのが、無登録仲介業者に関するものである。で言及したとおり、住宅オーナー等(住宅宿泊事業者)が無登録の仲介業者を利用した場合は法令違反となり、50万円以下の罰金が科される。適切な運用がなされれば、無登録仲介業者の登録物件は減少することが想定され、日本国内の法律に従わせる圧力となりうる。
また、届出をしないまま民泊営業をおこなった場合は旅館業法違反となるが、法案の議論と同時並行で旅館業法にも改正が入ることが予定されている。その中で無許可営業に対する罰金が3万円から100万円へ引き上げられることとなっている。
現状のヤミ民泊の横行は、罰則に実効性がないことや、新法の全貌がはっきりしない中で当局が踏み込んだ判断がしづらかったということが原因とも考えられる。適切な罰則を科すことで、正規の事業者が損をしない制度が構築されることが期待される。
 
そのほかの着目点
民泊を実施する物件には、公衆の見やすい場所に標識を掲げなければならない。どのような内容の標識を掲げるかは省令で定められるが、事業者の氏名や緊急時の連絡先等の記載が求められるのではないかと推察される。このように民泊を行っていることがわかるような掲示を求めるのは日本独特の制度である。
また、法案を見ると、各自治体に一定の上乗せ規制の猶予を与えている。都道府県(あるいは保健所設置市等)は、騒音などの「生活環境の悪化を防止」するために必要な場合、「合理的に必要と認められる限度」において、区域を定めて住宅宿泊事業を実施する期間を制限することができるとしている。民泊をどのように受け入れるかは各地域の事情を踏まえる必要があることは言うまでもないが、締め付けが厳しすぎるとルールが形骸化し、現状のまま実態不明のヤミ民泊がそのまま残ることになりかねない。
 
6.おわりに
ここまでに足元の日本の訪日外国人旅行客・宿泊業界の状況や、新たな法制度の概要、それによる自治体の動きなどを確認した。特に新たな法制度に関しては、既存の国家戦略特区や旅館業法との相違点を確認することも重要である。
2020年の東京オリンピックに向け、政府は訪日外国人旅行客数を4000万人まで引き上げたいとしている。急速な宿泊需要の増加に対する一つの方策として、適法で安全な民泊が普及するかは、この民泊新法の運用次第といっても過言ではないだろう。

 


 
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